シネマ感覚思考 / cinema-feel-think

1つの記事内に基本、映画紹介パートと、ネタバレありパートに分けて記載しています。お見知り置きくださいませ。



映画感想:『アマンダと僕』

 

 

 

 

「Elvis has Left the building」?

 

 

 

 

 

 

   『アマンダと僕』
              原題:Amanda

 東京国際映画祭題:『アマンダ(原題)』

 

 

 

 

 


あらすじ
  樹木の手入れやアパート管理で暮らすダヴィッドは、シングルマザーの姉サンドリーヌから子どものアマンダの世話をよく頼まれる。良い距離感でそれぞれに関わっている3人。管理するアパートに越してきたピアノ教師のレナを、ダヴィッドは飲みに誘う。幸福感のある生活。そこに、フランス中、世界中を巻き込み続けるかの出来事が。

 

 

 

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感想
  東京国際映画祭コンペティション部門「東京グランプリ」「最優秀脚本賞」受賞作品。
  アマンダに愛情を注ぐサンドリーヌ、2人を見守りながら関わるダヴィッド、この3人の関わり合いを観ているだけで充分な魅力を放っている作品でした。ダヴィッドとレナの関係も微笑ましいもの。この4人の関係性それだけでドラマ性を帯びており、続きが観たいと思わせられます。中盤の出来事から先、アマンダが見せる一挙手一投足には目が離せないものがありました。登場人物、互いの見つめる目線がとても優しい作品です。
  この作品を作ったという、その姿勢は評価され得るものだと思います。一方で、描いた事に対しての回収が出来ているかという点も、非常に大事だと思うのです。その点において、疑問を投げかけたいと思います。この作品で描く視点自体は非常に大事なものだと感じます。6月、公開予定。



 


観ても良いかも!!!

 

 

 

 

以下、ネタバレを含みます↓↓↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ感想

 

  個人的には色々と惜しい作品、と感じています。

 

  登場人物のコミュニケーションが、互いに慈しみのあるもので、わざとらしくなく、互いの優しさを感じられる演技になっていたのは非常に良かったと思っています。お互いを見つめると微笑み合うなど、細やかな演技・演出が活きていたのだと思います。役者さん、皆が魅力的でした。そのため、事件前の日常パートではアマンダ、サンドリーヌ、ダヴィッド、レナの関わり合いをこのまま観ていたい気持ちでいました。事件前のパートで、サンドリーヌとデヴィッドが母親と初めて会う事になるかもしれないであったり、ダヴィッドとレナの恋愛であったりと、充分ドラマの推進剤は用意されており、それらの描き方も魅力的で、その延長で見応えのある内容にする事も可能な作品だったと感じています。むしろ、私はそれが観たいと思わせられてしまったんですね。


  そんな心情で、公園での悲惨な光景に出くわしてしまい、ショックを受けました。恐らくテロがあったのだろうと、これはパリ同時多発テロを描いたのだと、そこからはなかなか作品に心を追いつかせるのが大変でした。そう観客に思わせたいからこそ、丁寧に事件前を描いていたのだと思うのですが、事件前が魅力的過ぎたのと、事件以降の展開でテロに対しての応答が出来ていたかというと疑問で、事件前の状態そのままを見てみたかったなと思ってしまっています。

 


  テロの影響下にあった人々のその後を描くという視点は意義あるものだと思います。悲痛さがとても伝わってきました。ただ、その描き方には丁寧さがあったものの、要所要所で不足を感じました。まずは、ムスリムの描き方です。この作品で唯一それとわかる形でムスリムが登場するのは、ヒジャブを頭に被っていた事で通行人から言いががりを受け公園でトラブルになっているというものでした。大前提として、イスラム教自体にテロリズムのような思想があるわけではなく、ISISなどの過激派は一般的なイスラム教の考え方からは遠く離れたものであり、別物として考えるべきだという事があります。しかし、イスラム教自体が危険なものという誤った結びつけをされる事で、不利益を被っているムスリムが現実にいらっしゃいます。だからこそ、テロを重要な転換の要素として扱っているのであれば、そのような誤解を解く演出を入れるべきだったと思います。言いががりのような場面を入れるのであれば尚更その誤った結びつきを回収するような演出が必要だったと思います。そのシーンは本当に短い1シーンですが、扱っている題材上重要な場面でもあったと思います。

 

  また、テロという題材を描いたものの、事件以降の展開でテロに対して応答していたかというと、疑問を持ちました。テロ以降も日常は続き、終わったわけではない、まだ続くのだという事を終盤描いたのだと思うのですが、私は不足感を覚えました。何をどうしたら良かったのか、という点まで至っていないのですが、すとんと自分の中で落ちなかったのです。


  また、不足感で言うと、テロの被害にあった友人アクセルがダヴィッドにカウンセリングを勧めるのはとても良かったのですが、その後劇中にダヴィッドもアマンダもカウンセリングに行くような描写が欲しかったなと思います。心の傷に対するカウンセリングの有効性は言わずもがなでありながら、映画一般にはあまりカウンセリングは登場しません。登場したとしても、舞台装置的なステレオタイプなものとして描かれる事が多いと思っています。本作でもテロに対する応答の仕方としてのカウンセリングはありだったと思うのですが、描かれませんでした。さらに心のケアの面で言うと、アマンダの夜泣きに対して、ダヴィッドは「泣かないで」と声をかけるのですが、この場面での適切な声かけは、「ここにいるから大丈夫だよ」といった、アマンダに安心感を与えるようなものだったと思います。このような声かけもカウンセリングに通っていれば出来るようになったのではないかと思う部分があり、この作品のもったいない、不足さを感じました。叔母とダヴィッドの家を行き来する時のアマンダなど、良い描写だなと思うものも見られたのですが。

 

 

 


「東京グランプリ」「最優秀脚本賞」受賞に対して


  本作は第31回東京国際映画祭にて、最高賞の「東京グランプリ」に加え、「最優秀脚本賞」を受賞しました。これに対して、シネマ感覚思考も直前に独自のアワードを発表したのですが、『アマンダ(原題)』には授賞しませんでした。

ブログOPEN記念!! シネマ感覚思考的、第31回東京国際映画祭コンペティション部門アワード発表!!!&総評!!!! - シネマ感覚思考

  これに関しては、上記に述べた通り、一定の意義がある作品ではあるものの、テロに対する応答の不足感があったという事が理由となっています。また、脚本に関しては、テロの悲壮さとその後の傷付いた人々の戸惑いの描き方は迫るものがあったのですが、終盤のダヴィッドが母と初対面するところや「Elvis has left the building」と関連させたテニスの試合などは、あまり上手さを感じませんでした。テニスの試合に関しては冒頭で言及があったものの、その後劇中に何かの象徴として登場することもなく、終盤の舞台立てとして、これで幕を引くのかと逆に驚いた部分でもありました。音楽やアマンダ役の方の演技で感動の波は感じられましたが。本作で上手いと思ったものの大部分が脚本よりも、監督の演出であったり役者の演技の上手さに依るところが大きかった気がします。そのため、脚本賞も最初から考えていませんでした。

 

 

 

 

 


演出についての雑記


  以下は、本作の演出についての雑記です。色々書いてきましたが、本作は良いところも多いというのも事実です。

 

・(追記)予告編が公開されましたが、結構本編見せすぎじゃないですか?「今に分かるわ」の場面はかなり大事な場面だと思うのですけども。予告編見てから本編観た方の感想が知りたいです。


・アマンダ、ダヴィッド、レナ、事件後の戸惑いの中、誰かと一緒にいる時はそれぞれ耐えているものの、それぞれが1人の状態でいるときに、感情を発露させていたのが印象的で、胸に迫るものがありました。

 

・クライマックスのテニスコートでのシーンでアマンダが滂沱の涙を流した後、デュースになってからみせる笑顔にはアマンダ役の方の魅力が詰まったシーンではありました。

 

・終盤、共に暮らす事を選んだダヴィッドとアマンダの2人の会話が好きです。
ダヴィッド「お互いに暮らせそう?」
アマンダ「今に分かるわ」

 

・前述しましたが、本作の役者は皆魅力的で、細やかな表情や距離感など、演技がとても良かったです。中でもやはり、アマンダ役のイゾール・ミュルトゥリエさんは、一般からスカウトされ、演技初挑戦だというのだからすごいですね。


・幸福感のある生活を描いた事件前のパートで、シュークリームを1人でアマンダが買いに行き、上からサンドリーヌが見つめているが、一瞬目を離し、画面からアマンダが消えるカットに、誘拐や死の予感が感じられ、事件前パートで唯一?不穏な空気が読み取れ、印象に残っています。


・これも、脚本の納得行かない部分なのですが、終盤ダヴィッドがレナの実家まで訪ねていき、想いを通わせた後、服を脱いで身体を重ねる描写があるのですが、このシーンは必要だったのか、脱がせる必要があったのか気にかかりました。なくても成立する場面だったように思います。

 

 

 

以上、『アマンダ(原題)』感想でした。ありがとうございました。