シネマ感覚思考 / cinema-feel-think

1つの記事内に基本、映画紹介パートと、ネタバレありパートに分けて記載しています。お見知り置きくださいませ。



映画感想:『テルアビブ・オン・ファイア』

 

 

 

 

 

 

 

〜パレスチナ問題にフムスを添えて〜

 

 

 

 

 

 

 


『テルアビブ・オン・ファイア』
             英題:Tel Aviv on Fire

 

 

 

 

あらすじ
  アラブ人のサラムは叔父を頼って、パレスチナ・イスラエル共に人気のTVドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」の脚本の仕事を手に入れた。しかし、書けない。どうしよう、と困っているところを、イスラエル検問所のアッシに目を付けられる。アッシは、自分を除け者にして家族みんなで盛り上がっているドラマの話題に、偉そうに入り込みたい。思惑が一致しはじめた2人。そんなアッシの作った脚本がサラムを通じてドラマで使用され、サラムは気になる相手に、アッシは家族に鼻高々。

  そして、いつのまにか2人が作る脚本で、イスラエルとパレスチナの未来が紡がれていく。

 

 

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感想
  東京国際映画祭コンペティション部門出品作品。
  コメディとして面白く、さらにその中にパレスチナとイスラエルの関係も落とし込んでいる良作で、いいもの観れたなと思える作品でした。


  コメディに関しては、登場人物のすっとぼけた感じが、じわじわと盛り上がってきての終盤の展開の驚きと爆笑。コメディはかなり当たり外れが大きいと思うのですが、この作品は楽しんで観れました。そして、驚きの仕掛けと同時に、その仕掛けそのものがパレスチナとイスラエルの今後へのメッセージも暗示させるという、バランス感覚を保ちつつも伝えたい事は伝える、しっかりと練り込まれた良作だと思います。


  パレスチナとイスラエルの背景知識があまりなくても、直感的にその関係性が見えてくる作品だと思います。この作品を観た後で、調べていくという取っ掛かりにもなるのではないでしょうか。もちろん背景知識があれば、よりディテールを楽しむ事できると思います。
  東京国際映画祭アワードで何か賞をとっても良い作品だったと思います。シネマ感覚思考的アワードでも授賞しなかったのですが、追加で"特別賞"を贈りたいと思います!!ブログOPEN記念!! シネマ感覚思考的、第31回東京国際映画祭コンペティション部門アワード発表!!!&総評!!!! - シネマ感覚思考

 

 

 

 

おすすめです!!!!

 

 

 

 

 


以下ネタバレを含みます。↓↓↓

 
ネタバレ感想


  最後まで観たら、もうアッシの面白みにやられてしまいました。劇中ずっとマウンティングしてくるあたり、なかなか好意的には思えない人物像ですが、一周回って最後に持っていかれました。劇場も爆笑でしたね。終盤手前まで、話のまとまる方向が見えず、どうなるかと思っていたんですが、最後の爆笑とメッセージの一致、話の収束がここまで出来ているのは素直にすごいなと思います。


  終盤、劇中ドラマの「テルアビブ・オン・ファイア」では、最終回に向けて、主人公のアラブ人女性スパイが、敵方だが想いを寄せるイスラエル人男性将校と任務との間で揺れ動きます。劇中の現実ではアラブ人のサラムが、フランス育ちのアラブ人役者にフランスへ付いてくるよう誘われるが、アラブ人の想い人と結ばれたばかり、アラブ人の叔父からはドラマの展開を主人公の自爆にしろと言われ、イスラエル人のアッシからは主人公はイスラエル人と結婚させろと言われ、板挟み。書いていて気付いたのですが、この構造なかなか複雑なんですよね。それを劇中の話で分かりやすく、かつコメディとして描いているのはやはりすごいですね。


  それぞれの人物がパレスチナ、イスラエルそれぞれのメタファーとなっており、ドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」の主人公はパレスチナそのもの、敵方の将校はイスラエルそのもの。サラムの叔父はオスロ合意に失望し強硬派となったアラブ人、フランス育ちのアラブ人役者はパレスチナの地を離れ戦いを逃れたアラブ人、アッシは戦う事を強いられたイスラエル人、そしてサラムはそれらの間で惑うアラブ人の新世代という具合。パレスチナはオスロ合意を繰り返すのか、それとも果てのない消耗戦に向かうのか、新世代は別の土地を目指すのかが寓意となっていました。


  そして、新世代のアラブ人脚本家が紡ぎ出したのは、ドラマを終了させず、新世代に主人公を交代させ、継続していくというもの。その新しい主人公は兵士を降りたアッシとなり、サラムはパレスチナに残る事を選びました。中身のない和解ではなく、終わりのない反抗でもなく、新天地へ行くのでもない。これから、戦いから降りた新世代が付き合いを模索していくのではないでしょうか。それを直感的に掴ませる良質なコメディでした。

 

 

 

 

 

演出についての雑記


以下は、本作の演出の雑記です。

・サラムの想い人が医師という設定、こういうところが大事だと思います。ただ、人物像として一面的なキャラクターだったなという点が惜しかったです。

 

・最初からいる脚本家の力の抜けた仕事への打ち込み、傍観者のメタファーだったのかなと思います。

 

 

 

 

 


良質なコメディは貴重です。

 


以上、『テルアビブ・オン・ファイア』感想でした。ありがとうございました。